P沼的プログラミング

PnumaSONの雑記

我、退職する

 

補足記事も書いたので。

『我、退職する』の補足をする - P沼的プログラミング

 

序文 

約1か月前の9月くらいに我は退職した。

 なんかちょっと個人特定を避けようとして辞めた月をあやふやに書いてみたが、これから書くことを考えれば、ほぼ完全にユニークスキルを発動させての退職であったので、なにも個人特定を避けられるものではないのである。

そうではあるものの、隠す気はあるぞ、気が付いてもみんなも素知らぬ顔をしろよということである。数字周りも適当に嘘を混ぜておくので、厳密には異なっている。大体そのぐらいの数と思ってもらえればいい。

 少なからず業界批判にあたることもあり、その道を目指す人の妨げになるのは不本意ではあるので、そもそも退職エントリを書こうかどうか迷ったのだが、なんやかんやでくすぶっているよりは書いてしまえということで書くことにした。

退職から結構時間が経ったうえでの執筆となるので、ある程度瞬間的な熱量が下がったうえでの記載であることをご理解いただきたい。

 また、もちろん我が書いているので我の主観で書かれている。他人の目から見たらそうでもないかもしれないので、こういう風に見ている人もいるんだという参考程度のものである。

 この話は気持ちフィクションだと思って読むといいのだと我は思うのだ。(まあゲーム業界などとんでもないのでフィクションみたいなことが平然と起きるのではあるが)

 

 

諸情報

 我の個人的な情報がなければこのエントリは判断しづらくよく分からないものになってしまうので、必要な情報を適当に記載してみる。

まず入社前の情報では以下のような感じである。

 

次に入社後の情報である

  • ゲーム会社勤務 ゲームエンジン関係開発者
  • 部内でなんとなくモデリングソフトを使える稀有な人材(部内で4人くらいのうちの1人)
  • GUIプログラミングができる
  • エンジンライブラリの開発もできる
  • シェーダの開発もできる
  • 主に自然物の表現向上とかやってた
  • といいながらアニメーション周りとかもやっていてなんだか分からない
  • CI管理とかもしてたなあ

端的に自己紹介するならそこそこ優秀でプログラミングもできる人材である。ゲームエンジン屋になるくらいなので物理や3D数学もそこそこできる。

我優秀。(自画自賛)

 

 

説明のために、仮にうちの会社は以下のように階級分けされているとする。(あくまで仮にね)

  • S階級:部長クラス(?) ディレクタやプロデューサの一部がここ。現場から離れて完全管理職になっていることも多い。
  • A階級:課長クラス(?) ディレクタやプロデューサ。強めのリードプログラマやリードプランナがここにいることもある。
  • B階級:リードプログラマとかリードプランナとかはだいたいこのあたり。
  • C階級:社員の3分の1くらいはここじゃないかな。7~10年くらい勤めるとここになる人がいる。
  • D階級:社員の2分の1くらいはここじゃないかな。我もここ。
  • E階級:だいたいが新人。2年目になるとよっぽどのことがないとD階級になる。

入社のいきさつ

 我はもともとゲーム業界に行くつもりで就活をしていた。ゲーム本体の作り方はなんとなく分かっていたので、我にとって未知の技術であるゲームエンジン系の部署に入れるところに行こうと思っていた。ゲームエンジンを自社で作っている会社は必然的に大手ゲーム会社になるのでそのあたりを受けた。結果的にいくつか内定をもらったが、そのなかでもっとも人事担当の人や面接担当者の印象が良かった会社に入社した。

(まあ、その人事担当の人は退職してしまったのですが)

あと、我は社長を尊敬していたというのもある。彼は確かにレジェンド級だと思う。技術的なものも慧眼的なものも行動力も。このときは尊敬していることによって、あのようなことが起ころうとは我は一切思いもしなかったのだ……

退職のいきさつ

崩壊、始まる

 我の部署の部長が変わったというのが、転機の始まりであったように思える。部長が変わってやや強行的なスケジュールになったことで先輩陣が退職を開始した。

 部長が変わった年だっただろうか、年に4人の離職者を出した(実際にはもう1人いるのだが、プログラマではないのでノーカウントとする)。いずれもそこそこ長年勤めた熟練者であった。内訳的にはC階級2人とC階級になれるくらい勤続したD階級1人とS階級1人。我の部署はゲームエンジン等の開発ということからかなり特殊である点もあり、年間に3人程度しか人材は追加されない。人数はそこまで変わらないまでも、実質はかなりのパワーダウンである。全体の人数もせいぜい30人程度であり、サポートから新規研究、現在のエンジンのバグ修正等まで一挙に行うため、一人当たりのカバー範囲はかなり広く、結構な仕事量である*1 。一番の問題は各個人の技術がニッチすぎるうえ、人数不足から単独で担当しているので、一般的なゲームプログラマに比べて極めて替えが効きづらいということだった。

 ただでさえ人数が少なく、仕事が過多な状況で4人の離職者を出したことで残った人間への負担は増加した。S階級の人は技術も高く、尊敬もされていたし、失うことによる精神的ダメージは大きかった。このままではまずいと思った。誰もがそう思ったと思っていたのだが、”誰もが”ではなかった。そう思わなかった人物がいる、そう部長である。

我、島流しにあう

  相次ぐ退職者によって我の仕事も例にもれず、増し増しとなった。我の就業意欲はかなりごっそりと削られていた。そんなとき部長から島流しの相談がやってきた。実は以前からもたびたび島流しの相談を受けていたが、我は断り続けていた。理由はいろいろあるが、通勤時間が往復で2時間程度増えること、寮の相部屋が蛮族*2であり、常時より睡眠不足になりがちであるからである。以前の流刑の相談は軽いジャブのようなものだったが、今回の流刑は我が渋ってもごりごり押してきた。上記のような出来事に揉まれ、疲弊していた我は「もう流刑地で最期を遂げても仕方ないか」と思い、流刑を期間限定という条件付きで受け入れた。こいつ我を退職させたいのか?と思ったが、もちろん部長はそんな気は微塵もないである。島流し先には我の上司がいて、我と上司が同じ場所にいたほうが知識の継承や仕事が捗ると部長が思ったためだ。結果的には退職がはかどり、技術の流出が捗っただけであったが。

 流刑地自体にそれほどの問題はなかった。むしろ空気環境*3は本拠地よりよく、単純な仕事環境としては優れていた。

我、困惑する

 流刑に合ったのちに我の能力評価の結果が送られてきた。結果は次のようである。

  お前の能力は平凡、よって昇給0円。

 確かに我らが業界は極めて昇給が少ないのである。だが、数百円程度は上がるものだ。上がらないということは去年とお前の能力は変わっていないと言われているのと同義であるからだ。歳を重ねて十分に熟練してきたあとならまだしも、ばりばり上昇中の人間を捕まえて成長していないと言われるのは我、意味が分からない。我は別にお金で仕事をしているつもりはなかったが、これはあんまりではないか。能力評価についてはゴミ扱いをうけた我だったが、ボーナスに関してはそこそこもらった。それは部署外評価があり、その評価が大変高かったからである。つまり他所の部署からは仕事している人間と思われているということになる。

 ちなみに我の部署の我の同期も同じ、昇給0円の刑を受けていた。しかし、他部署の同期はそうではなかった。単純に我らの部署はゲームプログラマ様たちに比べて非常に待遇が悪く、同じ評価であっても昇給額が異なるということのようだった。

 流刑にあったうえ昇給0円という驚くべき事実に困惑はしたものの、業界標準で言えばもらっているほうなのでまあいいかと思い、ひどいシステムだなあと思いながらもこれを軽く乗り越える我だったが、別方向の攻撃に悩まされることになる……

我、吼える

 流刑地で無能宣告を受けつつもなんとか仕事を続けていく我だったが、我の案じていたように蛮族の蛮行による睡眠妨害と通勤時間の増加によって睡眠時間が担保されず、肉体的にも精神的にもダメージを蓄積させていった。

 ばんばん蛮族がばんばん蛮族行為をやめないので、我は総務に訴えを出すことにした。我が住んでいたのは会社が管理しているものであり、会社の権威によって追い出すことが可能なものである。偶然運悪く隣が蛮族というだけで、不利益を被っているのは甚だ遺憾であるので、蛮族を追い出してみんなでにっこり快適寮生活をすればよいという簡単な話である。我は蛮族の蛮族行為について事細かに記載し総務へ訴え文を出した。蛮族は他人のものを食べるし、蛮族がライフラインの支払い義務を担っていたので、電気は止められるわ、ネットは止められるわ、夜中に歌いだすわでまともではないのでなんとかしてくださいとメールを送ったわけだ。

 その結果は 「お前らで解決してください」 だった。

 うーん、蛮族が我のジュース(1リットル未開封)を飲み干してゴミ箱にインしていた時に我が苦言を呈した時の蛮族の返答は「だっておいしかったんだもん」だったのだが、このようなやつにどのように解決をほどこせばよいのだろうか。

 我は絶望した。環境が嫌な奴が寮から出ればよい、要は総務はそう言っているのだ。まともでない人間に対応するより、まともな人間を退寮させるほうが総務は楽である。そして「俺たちは福利厚生として寮を用意した。お前が勝手に嫌で出ていっただけだ」と言ってのけるのだ。まともな人間に負担をかけさせてを追い出して、まともでない人間を放置する会社なのだという印象を強く受けた。我は会社に対する不信感でいっぱいであり、本能寺ゲージはアゲアゲであり、ムカ着火ファイアまで秒読みであった。

我、激昂する

  前項のようなことが行われているながらも、仕事環境としてはマシだったので、なんやかんやでぎりぎりのラインを保っていた。ところがそんなかりそめの平穏も長くは続かなかった。T氏(仮名)の登場である。我より2階級も上なB階級プログラマであるT氏から機能実装の依頼がやってきたのである。

  T氏「○○ってシステムを作ってください」

   我「△△という理由で作れません」

 至って普通の回答である。我は専門職であるし、できない理由を説明したうえで断った。ところがやつは頭がお悪いのか食い下がってきた。

  T氏「その数値を利用して描画されているのだからデータは取得できるはずだ」

 我は出たークソ発言と思った。分野違いでこの手の状況に詳しくない方に説明すると、描画用データと直接利用できるデータの形式は高速化の都合上異なることが多い。わかりやすく言うならば、彼が言っているのはお好み焼きから小麦粉だけ分離して出せと言っているのだ。原理的にできないことはないが、アホみたいに計算時間がかかるし、本来の精度から落ちた情報になるので補足情報なしに完全な形に戻すことはできない。あくまでいろいろな条件付きでできるということになる。

  我「そうですね。でも▲▲という理由でも作れません」

 我は愚かな民に真面目に話すのが面倒なので別の実装不可能な理由を提示することにした。実装できない理由は仕様上・計算時間・レギュレーション違反と多岐に渡ったのでどれで彼が承諾してもよかったので、もう一つ理由を挙げてみたのである。だが奴は引き下がらない。

  T氏「▲▲をオンメモリにすれば速度問題は解決できるはずだ」

  我「仮にそうしたとしても、▲▲を直接いじるような機能はないので無理です(とい    うかそれは完全にレギュレーション違反だろう)」

 我は彼のあまりの知識のなさに辟易していた。ライブラリ領域でやっていいことといけないことの違いも分からないのかと。これは我がエンジン屋だからとかそういうのではなく、ごくごく普通のプログラマの感覚だと思うのであるが。

  T氏「本気で言ってるのですか!?▲▲はお前らの部署が作ったものだ。そのデー     タが取得できないわけがないだろうが、そんなこともわからないのですか?」

 我はあまりの怒りに言葉を失った。もしこのやり取りが電話で行われていたなら、我は千の言葉で罵詈雑言を飛ばしただろう。あるいはそうであれば我は退職していなかったかもしれない。▲▲の形式は我々の規格であるが、内包している××の機能は全世界的に公開されている技術である。××のデータの取得は一般的に困難な作業であるし、××が内包されていることは社内では公開情報であり、少しでも理解のある人なら知っている内容である。

 我は悟った。

  あまりにも愚かだと自分が愚かなことも理解できないのだ。

 我らの会社の評価制度は完全能力評価である。ある人より階級が下の場合、ある人より能力が低いとみなされているのと同義である。つまり、我はT氏より2段階も能力が下なうえ、昨年と同程度の能力のままでこいつに追いつける気配すらないのだということである。

 本能寺ゲージは景気よく上昇し、無事ムカ着火ファイアーとなった。

 我はこのタイミングで退職することをほぼ決定したのであった。

崩壊、進む

 我が流刑地で密かに退職を決意している中、本拠地では死屍累々の地獄絵図が始まろうとしていた。

 我々の負担は見るからに増加していたが、部長はまずいと思っていないらしく、翌年も同程度あるいは結果的に人数が減った都合で同程度以上の負荷をかけたことにより、さらに5人の退職者を出した(実際にはもう1人いるのだが、プログラマではないのでノーカウントとする)。いずれもやはり熟練者である。*4

 これだけを聞くと部長が諸悪感あるので一応の弁護をしておくと、部長の開発者としての能力は極めて高いと思っており、それはおおよそ他の社員も同様に思っていたと思われる。ただ、彼が優秀であるがゆえに標準値が完全に狂っており、ある階級の人間の責任範囲を大いに越えた仕事を当たり前のようにやらせる節があった。A階級超人説というようなことが部内では言われていた。

 さらにうちの制度が極めて悪いことに、部署ごとかつ階級ごとの相対評価によって評価をつける。総人数が少なければ高評価をつけれる人数は少なくなる。つまるところ、C階級はかなり減ったことにより、C階級で高評価をつけれる人数が減り、全体的に負担が増したにもかかわらず評価が下がるというようなことが起きたと考えられる。

 また、能力主義という制度を無視して勤続年数で昇格の如何を決める節があり、C階級がいなくなり、D階級がおおよそC階級同様の仕事を行っているにもかかわらず、年数が少ないからという理由で昇格が行われないという状況もあった。これについては直接我ら評価しているのは部長ではないので部長の問題とはいいがたい部分である。

我、退職届けを出す

 我の退職の意思はさらなる崩壊を受けて強固なものになっていった。きっかけはT氏であったが、それ以前からも階級に対して能力が低すぎるのではないかと思われるゲームプログラマ様やプランナ様がいることをしばしば目にしていたし、そういうゲームプログラマ様のせいで本当に優秀なゲームプログラマやプランナがやめていく様子を見ていたので、あいつらのために仕事をしたくないという気持ちが強くなっていた。

 例に挙げるならあるB階級の人物が「ライブラリがビルドできないからそっちでビルドしたものを渡してくれ」と依頼してきて、我が先輩に「この人プランナですか?」と尋ねたらプログラマだと返答が返ってきたなどということがあった。我の印象だけでなく、他の社員の印象でもB階級の無能率は非常に高いということらしい。昔から働いているという理由でB階級にいるという面が強いらしい。つまるところ完全能力評価と言っているが、実際の現場からの評価とはまったく異なるということである。

 部長との面談の際に我は睡眠不足であることを訴えたが、何の効果もなかったし、期間限定と言っていたのに一切本拠地に戻す気がなさそうであった。それどころか別の機会には「P沼君は流刑地に居たいんだよね」などと言い出す始末であった。我はスタッフロール等の都合もあり、退職のタイミングを伺っていたが、退職予定日よりかなり早いタイミングで退職届を出すことにした。前述のように部内はボロボロであったし、我の下に人をつけさせて十分な時間と教育の上で引継ぎを行うためだ。退職届から退職までの間に新人の追加もあるし、我が辞めるという情報があれば多少新人の数が融通されるかもしれないと考えたためだ。

 そして我は厳かに退職届を提出したのだった。

我、開戦する

  我が辞めるとなればもちろん面談が用意される。「ああそう。分かりました」くらいで退職届が受け止められるみたいな、白身魚のように淡泊なケースもあるのかもしれないが、我らの部署の状態も相まってか、やすやすと退職させるわけにもいかないので、面談の場が用意されたのである。

 我がメインで訴えたものは2点、流刑により身体にダメージが入ったこと、そして能力の低いT氏のことである。T氏の件については最後のほうのやり取りは部長にも見える形で行われていた。別に我が部長をやり取りに入れたわけではなく、T氏が愚かなあまり自分が正しいと思っていたので、我の部長に訴えるつもりで入れたものであった。部長の理解も我と同様で我の内容が正しく、T氏が間違っているという話で共通の認識があった。そのうえで我は「T氏はB階級にふさわしい能力を持っているとは思えない。そのような人物を放置することは能力のあるB階級以下の社員を馬鹿にすることにもなるし、指示系統の上にいることで成果物の品質に関わるので速やかに始末すべき」と言ったのである。部長は我を本拠地に戻すとは言ったが、T氏に関しては部署違いということもあり、特に触れなかった。

 我の関心は完全に会社の評価制度の正当性のほうにシフトしていっていたため、正直いまさら本拠地に戻されても大した話ではなかったので、我は退職届を引っ込めることはなかった。

 そのような面談がおおよそ3回程度行われた。我の主張はやや異なる部分もあったが毎回おおよそ同様であった。変わった点があるとすれば、「T氏が能力不十分であることはまあいい。T氏が能力不十分であるにも関わらず、そのような人間の階級を下げない評価者に問題がある。能力不十分なこと自体に罪はない」という論法に移っていったことである。仮にどんだけ能力のない人間がいたとしても、そのような人間が指示系統の上位にいなければ、影響は軽微であるし、成果物の質に関しても問題がないわけである。そのため、メインの論点は「評価している人間が評価制度を理解していない。年齢を加味して評価しているなどという発言をする評価者もいた。根本的に評価制度or評価者の質が悪い」という点となった。

  我の指摘した問題点はだいたい以下のようなものである。

  • ことなかれ的評価を行う評価者によって不当な評価が行われている
  • 単純に評価者が評価制度を理解していないので不当な評価が行われている
  • ゲームが売れるとその個人の影響度を問わず高評価が出るので邪魔をしているだけの人間でも高評価になってしまうことがある
  • 評価が完全トップダウンで下の者へのヒアリングが行われないため、能力の低い上位者の階級を落とすには盛大に爆死するゲームを作る以外に方法がない。

 我は「彼らのような人間の評価を上げるために働きたくはないし、彼らのお給金のために働くのは嫌だ」と訴えたが、部長は「働くのは自分のために働くのであって 彼らのためではない」という至極真っ当な返答を返すのであった。だが、我は優秀な人材を食い物にして、我の会社を食い物にしている彼らを放置する行為は看過できないことであった。我は社長を尊敬しており、その社長が築いたものを壊していく行為に憤りを感じたうえ、我は会社の名前に誇りを持っていたので、我が所属している”我の会社”という強い帰属意識があったことから見逃せる内容ではなかったのである。我が適当にもの作って給料もらって鼻ほじってればいいやみたいな気持ちの社員であれば、我とそこまで直接関係のないこのような理由は退職理由にならなかったかもしれない。

 部長は我らの部署のトップではあるが、前述のように部長歴は浅いし、パワーバランス的にゲーム開発者様のほうが強いのでもちろん部長がなんとかするのはかなり困難な内容であったであろうという理解はある。そのため我はこの場で吼えてもある程度仕方がないと思い、さらなるミサイルを密かに準備していたのであるが、これはまだしばらく先の話である……

我、奮戦する

  部長とのバトルの中、我の意思が変わりそうもないことが見て取れたことにより、この戦いは終結した。しかしその終結は次の戦いの開戦となるのである。

 そう、人事との闘いである。

 人事面談で行われる内容は完全に退職を前提に行われているのであって、引き止めの要素も直接的な即時改善の要素もない。そのため、会社の改善に協力する必要は一切ないので、適当に私事都合でーすなどとほざいて始末してもいい話ではあるが、残される同期たちの問題もあるし、我は最後の仕事として全力を尽くすのである。

  人事との面談に先立って、退職理由を綴る書類をしたためる。指定された書類の様式ではエクセル1枚程度であり、退職理由も数行書く程度のものであったが、勝手に書式を改良して行数を拡張し、万の言葉で退職理由を彩っていく。前項で指摘した問題点をメインに据え、会社全体の利益を考えない利己的な人間によってエンジン屋のリソースを無駄に消費しているという話や、彼らは我々を下に見ているという話を実例を挙げつつ記載していく。また、パワハラ気質のある問題のある人間を問題があると分かっていながらそのままにしていることや、そういった問題のある社員をパワーバランス的に弱い部署やチーム、要は売れ行きの悪い部署とか直近で失敗したプロデューサのチームに押し付けるという行為が横行していること、責任をもって社員の評価を下げる評価者がいないと言った話を実際のチーム名を挙げて我は指摘した。我はこの時のために、人脈を駆使して各チームで起きている問題点や不満を収集していたので、それはそれは正確にチーム名と個人名を挙げて、書類をしたためたのである。

 出来上がった書類に満足し、提出して数日の後、人事との面談と相成ったのである。

 我が指定された部屋に先立って入って座って待っていると、人事があとから部屋に入ってきた。すでに涙目の状態で。我はそれほどおかしなことを言っているつもりはなく、己らの評価制度に記載されている通り、しっかり能力で評価せよ、そしてそう評価しないものはちゃんと始末せよと言っているだけであり、人事に対する抗議のつもりはなかったのであるが、人事に対するバッシングと受け取られたのかもしれない。我の中では人事制度が悪いというより、人事制度を理解しない評価者をのさぼらせるのが悪いというつもりであったが、じゃあどうやってそういうのを始末するのか?ということになると結局のところ人事制度が悪いということになるのであった。

 直接人事に話をした内容は、上記の内容とそれほど変わらない。それに加えて個人的な件である蛮族に関する話とコンプライアンスに関する総務とのやり取りの件*5を追加で話しただけである。

 人事からは降格に関してはこちらでも問題を理解しており、対応策を検討しているというような当たり障りのない内容であった。我からは「アホみたいなディレクターのせいで、あるチームでは20人程度の退職者を出しているし、どっちが会社を辞めるべきであったかはすぐにわかることだ。こんなことは今に始まったことではなく、ずっと前から問題であった話であるので、行動が遅すぎるし危機感が足りない」という返答である。

 また、人事は我が優秀だから他の社員が優秀でないように見えているのではないかといった論法で攻めてきたが、「我が優秀であれば我の評価はもっと高いはずであるし、評価制度が正しいのであれば、彼は我より断然優秀であるはずだ」という至極真っ当な論法で返答するのである。結局それは人事がそもそも己の人事評価が破綻していることを示しているに過ぎなかった。

  我は人事部のトップの奴が完全にコネ入社で能力に拠ってその地位にいるわけではないことを知っているので、正直なところ人事部によって正しい解決に導かれるという未来を思い描けないでいた。実際に我が入社する要因となった人事部の社員は辞めてしまったこともあり、あまり信用できたものではないのである。

 また、前述のように我が部の部長ではパワー的に弱いし、我らの訴えのもみ消しの前例(この件は割愛する)がある。

 だが、我はその程度のことはすでにお見通しなのである。やるとなったらとことんやる我はこの程度で終わらせないのである。

我、ゲリラ戦に突入する

 我は前哨戦で活用していた武器をさらにシェイプアップして、実例をもとに何が会社で起きているか、それによって引き起こされる問題は何か、どうやって解決ができそうかを記載し、人事評価制度改正の提案としてまとめた。項目は箇条書きを主とし、長すぎて目を通されもしないという状況が避けられるよう細心の注意を払った。

 準備は整った。ゲリラ戦の開始である。実際のところ、ゲリラ戦と言うよりはダイレクトアタックである。誰に?もちろん社長にである。

 会社のシステムの都合上、社員はみなメールシステムに登録している。社員であれば派遣社員でも契約社員でも例外ではない。社員でさえあれば仮にそれが社長であってもである。我が社長にメールするのに必要なのは、社長の名前を知っていることと、メールを出すのに必要な少しばかりの胆力である。

 我はメールを送信した。送信したのである。

 

我、終戦する 

  我は待った。何らかのアクションが返ってくるのを。あの社長のことだ、以前「派閥とかそんなものがあったら私に連絡してください」と言っていたあの社長のことだ、何かしらアクションがあってもおかしくはない。とはいえ、ぺーぺーの我の言葉の信憑性を疑う可能性もある、そもそも退職しようという奴の言葉であるからそれは致し方がない。

 だがなにも我にアクションは返ってこなかった。返ってこなかったのだ。我は忘れていた。社長には秘書がいるのだ。大抵のものは秘書のフィルタがかかったうえで社長のもとに行く。しかも運の悪いことに、その秘書は社長のみの秘書ではなく、別の役員の秘書と同一人物である。もし仮に、その秘書が判断に困り、その役員に判断を仰いだら、都合の悪い文書は抹消されてしまう。そうでなくても秘書の独断で抹消されてしまう可能性は往々にしてある。事の次第は推測するのみでまったく分からないが、事実我に返信は来なかったのだ。

 こうして我の戦いは呆気なく幕を閉じたのである。

 

崩壊、止まらず

 時期は前後するが我の退職の公式発表ののち、しばらくしてA階級の人が2人、退職するという発表をした。我の戦いは幕を閉じたが、我の元部署の戦いはまだまだ続きそうである。

 

 終わりに

 我がメールを出してから数週間程度で退職となってしまった。同期に何かアクションがあれば伝えてくれるという人がいるので、いまのところなにかアクションが起きたということはなさそうである。実際のところ、秘書が止めたのか、あるいは誰かが間に監査で入っているのか、社長が多忙のためメールを見ている余裕がなく、後回しになっていただけとか、どうであったかは実際のところは闇の中だ。そういう状況ではあるものの、我はいまでも社長のことは尊敬している。変わらず大変偉大である。

 それはそれとして、つらつらと問題があったことや、我の対応について記載したが、必ずしも全員がこれを問題としているわけではないのである。我がアクションを起こしてそれを揉み消すということは、つまるところ少なくとも彼らにとってはその問題より我の発言のほうが問題なのである。会社は合う合わぬというのは必ずあるもので、絶対的な悪がそこにあるわけではないのである*6。何が言いたいかというと我は我の良かれとして提案するが、会社にとって我の提案が最善かどうかは分からないし、最後は上位陣の判断によるので、それが好ましくない結果となったとしても、最終的には我はそれを受け入れるか、受け入れず退職するかを選ばなくてはいけない。決して受け入れない状態で燻って会社にいてはいけないのだ。それは会社にとってお邪魔であるし、利益を損なう行為である。

 あと我はちょっと頭おかしい節あるのでこういうことやっちまうが、基本的には人間は穏便で温厚であるほうが好ましいと思われる。もし会社が小の虫を殺して大の虫を助ける動きをしているとき、君が大の虫なら強いて騒ぐ必要はないかもしれない。ただもし自分が問題だと感じていて、改善してほしいと思っているのに動かないのなら、それは良くないのかもしれない。

 我がこの経験を通して学んだことは、人間は予想以上に他人に対して愚鈍であるということだ。それは上位の人間であればあるほどそうであるように感じた*7。そうでなくても、言わないで察してくれと言うのは少なからず傲慢な部分もある*8。実は言ったらするっと通るかもしれない。もちろん言うことによって諍いが生じることもありうるが、一時の諍いなど延々と続く本能寺ゲージの上昇に比べれば大した話ではないことも多い。意見が通らなかった時でも何らかの意図があるという説明さえあればわりと折り合いがつくものだ。

 他にもいろいろな技術を学ぶことができた。それらの技術はなかなか稀有なものであるし、非常にありがたいものである。いろいろあったものの、部内に限って言えば、比較的良い環境と優秀な先輩に恵まれていたと思っていてそのことはとても感謝している。決して悪い事ばかりではないのだ。業界標準で言えば結構高めの給料ももらえていたしね*9

 

 結果的に長々と書いてしまったが、もちろんこのようなことは誰にでもどの環境でも当てはまるような汎用的なことではないのである。どこかの異界の死者の館ではそういうこともあるんだなあくらいに思ってもらえればよいのである。

 

 いろいろと経験をしたうえで我は今度このようなことがあった際には、退職を決断する前にしっかり一戦して来ようと思ったのである。我のためにも、我の所属する組織のためにも。もちろん穏便な装いで。

 

まあ、現ニートな我に”今度”がいつくるかは分からないのではあるが……

*1:エンジン班で30人いれば十分じゃない?って思う同業者の人もいると思うので、補足すると、上記に記載のようにGUIからGPUサイドまで、またモデリングソフトとエンジンの連結等までオールサポートしている。手っ取り早く説明するならライブラリのみを切り離すこともできるUnityを30人で作っていると思ってもらえればいい。もちろんネットワークやサウンド処理もサポートしている。30人でやるには結構な離れ業である。

*2:詳細を書くと長くなるのでここでは記載しないが、冷蔵庫にある我の食糧を無断で食べたり、朝に夕にうるさかったりするやつである

*3:この件も書くと長くなるので単純に本拠地では基準値の2倍程度の二酸化炭素濃度で不調を訴える人がいたという話でおしまいにする

*4:あんまり細かく書くとくどいのだがC階級が3人とD階級が1人と契約社員である

*5:この件は結構普通にまずいので適当に濁すが、会社のコンプライアンスに関わるので注意喚起せよと我が総務に訴えたが、総務が何も行動しなかったという件である

*6:人事制度の記載の通りに評価が行われないのは契約違反であるし悪では?と思わなくはないが

*7:「出世できるのはサイコパス」とまことしやかに社内で言われていたのもある

*8:蛮族はさすがに察しろと思うが

*9:就業時間中にいびきをかいて寝ているA階級が我の2倍程度の給料をもらっていることに目を瞑ればね